CORE sensor を買ってからしばらく経ちます。夏場のトレーニングでは深部体温のモニタリングに使っていて、主にオーバーヒートしていないか、強制的に休憩を入れるべきかの判断材料にしています。今回の宮古島が、このセンサーをレースで実戦投入する初めての機会になります。
宮古島は 4 月末の沖縄で、島特有の気候に加えて湿度も高く、日中の最高気温は 27–30°C に達する可能性があります。レース時間帯(朝スタート)の実際の気温は 20–25°C 前後になりそうですが、東京の現在のトレーニング環境との差はかなり大きいです。東京は今 10–20°C 程度で、普通のトレーニングウェアではほとんど熱ストレスがかかりません。意図的に準備しておかないと、現地に着いてから身体を慣らすのでは間に合いません。
そこで、ここ数週間は本格的に暑熱順化トレーニングに取り組んでいます。この記事では関連する研究背景、装備、現在の実践内容を整理します。
暑熱順化トレーニングとは
暑熱順化トレーニング(Heat Acclimatization / Heat Acclimation)のコンセプトはシンプルです。暑い環境に繰り返し身体をさらすことで、生理的な適応を能動的に引き出す。レース当日にいきなり耐えるのではなく、事前に身体を変えておくということです。
このプロセスで主に起きる生理的変化は以下の通りです。
血漿量の増加:研究では、暑熱順化後に血漿量が平均 10–12% 増加することが示されています[1]。血漿量が増えると、同じ心拍数でより多くの血液を送れるようになり、発汗に必要な水分の供給も長く維持できるため、放熱効率が持続します。
発汗効率の大幅な向上:発汗の開始が早まり(より早く汗をかき始める)、発汗量も顕著に増加します。一部の研究データでは、順化前と比較して約 3 倍近くまで増加するとされています[1]。高温下で深部体温を維持するうえで非常に重要な変化です。
深部体温の低下:同じ運動強度で、深部体温が約 0.27–0.28°C 下がります[2]。数字としては小さく見えますが、限界に近いトライアスロンのレース状況では、この差が現実的なバッファになります。
心拍数の低下:心臓がより少ない負荷で同じ出力を維持できるようになり、後半の疲労に対応する余力が生まれます。
これらの適応効果はレース当日に突然現れるものではなく、トレーニングの積み重ねで初めて得られます。
研究の知見:何週間必要か
適応期間は約 10–14 日:主要な生理的適応はこの期間内にほぼ完了します。1 回あたりの有効トレーニング時間は 45–60 分、週 5 回を 2 週間連続が研究で一般的なプロトコルです。時間が足りない場合でも、最低 6 回実施すれば一定の効果があります[3]。
効果は 4–5 回目以降に現れ始める:2 週間待たなくても体感できますが、効果を最大化するには 10 回以上の実施が必要です。
適応効果は減衰する:この点は見落とされがちです。暑熱トレーニングを停止してから 2 週間で、心拍数の適応は約 35%、深部体温の適応は約 6% 減衰します。3 週間で約 75% の効果が失われます[4]。つまり、レースの 1 ヶ月前に終わらせてそのまま待つのは得策ではありません。レースの 2–3 週間前に開始し、3–4 日前に終了するのが推奨されるスケジュールです。最も完全な適応状態でレースに臨めます。
良い知らせとして、再適応の速度は減衰よりもはるかに速いです。10 日間の順化 + 12 日間のブランクがあっても、わずか 2 日で大部分の効果を回復できます[4]。

CORE センサーを使う理由
暑熱順化トレーニングの根本的な問題は、「十分に暑い状態になっているか」をどう判断するかです。感覚だけでは不正確です。厚手のトレーニングウェアを着て暑く感じていても、深部体温が実際に適応ゾーンに入っているとは限りません。逆に、深部体温がすでに高くなっていても、主観的にはまだ大丈夫と感じているケースもあります。
CORE sensor はチェストストラップに装着し、深部体温と Heat Strain Index(HSI) をリアルタイムでモニタリングします。HSI は深部体温と皮膚温度を組み合わせた総合指標で、0–10 のスケールで身体の放熱負荷を数値化します。信号は Garmin や Wahoo に直接送れます。

CORE 公式では暑熱順化トレーニングの目標を HSI Zone 3(3–6.9)で 45–60 分間維持 としています[3]。自分の場合は HSI の最大値を約 5 に設定し、45–60 分間のトレーニングを行っています。トレーニング終了後もすぐには装備を脱がないようにしています。深部体温と HSI はしばらく高い値を維持するので、その時間帯にも適応効果が続きます。
用途は大きく 3 つあります。
- トレーニング中:十分な熱ストレスゾーンに入っているか確認し、過剰や不足を防ぐ
- 適応進捗の追跡:トレーニングを重ねるにつれて、同じ環境で HSI の上昇速度が徐々に遅くなる。これが身体が実際に適応しているサインになる
- レース当日:HSI をリアルタイムで見ながらペース配分と補給戦略を調整する。感覚ではなくデータで判断する
正直に言うと、CORE sensor の精度については疑問を呈する peer-reviewed の検証研究があり、測定ポイントの約 50% が研究で設定された有効閾値を超えていたとされています[5]。「絶対的に正確な深部体温計」として扱うのは適切ではありませんが、トレーニング進捗を追跡する相対指標として、またレース中のリアルタイム参考値としては実用的です。絶対値を追うよりも、トレンドの把握に使うことが重要です。
Garmin の腕時計にも暑熱順化指標が内蔵されていますが、GPS とペアリングしたスマートフォンの天気情報から算出するもので、深部体温や皮膚温度を直接測定しているわけではありません。参考程度にとどめるのが妥当で、暑熱順化トレーニングの指針としては信頼しにくいです。
実際の装備:暑い環境をどう作るか
東京の室温でローラー台を回したりランニングしたりするだけでは熱ストレスが足りないので、意図的に「暑い環境を作る」必要があります。現在使っている方法は 2 つです。
CORE Heat Training Suit
CORE 公式のトレーニングスーツで、100% Polypropylene、生地重量 65 g/m2。暑熱順化トレーニング専用に設計されており、密着性が高く保温効果がはっきりしています。サイズは 177cm で M を着用。公式では M は 180cm まで対応とされていますが、実際に着るとかなり大きめで、S のほうがフィットするかもしれません(S は 172cm まで推奨で、ちょうど境界あたりです)。
3M 工業用防護服 4510
これは偶然見つけたものです。最初に CORE suit の荷物が届かず、急遽代替品として購入した工業用防護服です。使ってみたところ、効果はかなり近いものでした。素材は同じ Polypropylene で、生地重量は 47 g/m2。CORE suit の 65 g/m2 より薄手ですが、実際のトレーニングでの保温効果はほぼ同等で、価格もずっと手頃です。コストパフォーマンスの高い代替選択肢です。

この格好で屋外を走ると、通行人に確実に変な目で見られます。ある意味これも暑熱順化トレーニングの一環で、気にしないことに慣れるだけです。
トレーニングの実際の感触

暑熱順化トレーニングの大部分は室内のローラー台で行っています。通常は強度メニューを終えて深部体温がまだ高い状態のまま、一度降りて heat training suit を着込み、低強度の Z2 または Z1 で 45 分〜1 時間ほど再び回します。その間 HTL(Heat Training Load)をモニタリングし、当日の目標に近づいたら終了します。降りた後にすぐ装備を脱いで放熱しなければ、残留する熱ストレスでも多少の順化効果が続きます。
トレーニングを重ねるにつれて、同じ装備でも HSI の上昇速度が遅くなりました。これは身体が適応しているサインですが、同時に十分な熱ストレスを維持したければさらに厚着する必要があるということでもあります。室内でローラー台に乗る際は、後半になると training suit の上にさらに長袖ジャージとジャケットを重ね着して、HSI を目標ゾーンまで上げるようにしています。
屋外ランニングでの感触はまた異なります。汗が風で飛ばされやすいため熱ストレスを維持しにくい一方で、ランニングは熱の蓄積が速いです。
数回トレーニングを行った後、発汗の反応が明らかに速く、量も多くなりました。この主観的な変化はかなりはっきりしています。
台湾在住の方であれば、普段の屋外トレーニングで自然に暑熱順化が進んでいるはずです。今の気温なら外で練習するだけで同程度の効果が得られるので、特別に追加する必要はないかもしれません。東京の現状ではそうはいかないので、意図的に環境を作る必要があります。
注意事項
- 深部体温の目標範囲:38.5–39.5°C。40°C を超えないこと。この範囲を超えると「適応」ではなく「障害」になる。
- 水分補給は通常より多めに:発汗率が上がるため水分需要も増える。喉が渇く前に飲むこと。
- トレーニング中止のサイン:HSI の異常な急上昇、めまい、心拍数が想定を大きく超えて高止まりする場合は即座に中止する。
- タイミング:レースの 2–3 週間前に開始し、3–4 日前に終了する。
まとめ
暑熱順化トレーニングは特別なメソッドではなく、背後にある生理メカニズムは豊富な研究に裏付けられています。東京で宮古島のレースに備える自分にとって、これが今最も現実的な準備方法です。CORE sensor はこのプロセスにおいて、トレーニングを数値化し追跡可能にする役割を果たしています。「たくさん汗をかいた気がする」ではなく、データで確認できるようになります。
レース後に実戦レポートを書く予定です。
References
[1] Racinais, S. et al. (2019). Physiological Responses to Heat Acclimation: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. Sports Medicine. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6543994/
[2] Goosey-Tolfrey, V. et al. (2019). Mixed Active and Passive, Heart Rate-Controlled Heat Acclimation Is Effective for Paralympic and Able-Bodied Triathletes. Frontiers in Physiology. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6763681/
[3] CORE. Building Heat Training into Triathlon Training. CORE Help Center. https://help.corebodytemp.com/en/articles/10447170-building-heat-training-into-triathlon-training
[4] Moran, D. et al. (2018). Heat Acclimation Decay and Re-Induction: A Systematic Review and Meta-Analysis. Sports Medicine. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5775394/
[5] Niederer, D. et al. (2021). Reliability and Validity of the CORE Sensor to Assess Core Body Temperature during Cycling Exercise. Sensors. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8434645/